西洋絵画−初期ルネサンス

西洋絵画史の始まり

西洋絵画史の精神は「人間性の自覚」にある、というのが私の基本的な考えの立場です。そのため、当ブログでは、初期ルネサンスを西洋絵画史の始まりとします。

舞台

フィレンツェ

初期ルネサンスの舞台は、市民階級がいち早く台頭したイタリアの商業都市「フィレンツェ」です。

時代背景

キリスト教世界のほころび

中世ヨーロッパ社会は、これまで精神的にはキリスト教に支えられてきました。しかし、このキリスト教観というのは、人間を神の摂理にのみ従う下僕として、その限りにおいて人生の意義を認めるものでした。そのため、ここでは自由な人間性の働きが抑圧されることになります。

人文主義的傾向が高まる

やがてそれは、人間性を再び取り戻そうという潮流*へとつながり、その拠り所として、人間の理性に信頼を置いた古典の世界が再発見されるに至りました。いわゆる人文主義思想といわれるものです。彼らがあてにしたのは、古代ギリシャ・ローマの文化や哲学でした。古代ギリシャ・ローマの古典的な文献や思想を研究し、人間中心の視点から社会や文化を見直したのです。

人文主義者たちは、人間の自由や能力、自己啓発に対する信仰を持ち、自由な思考や個性の尊重、美への愛や知識の追求などを重視しました。

時代の特徴

個人主義の誕生

人間は有限的な存在ではあっても、その人間の能力自体は尊重され高く評価されるべきである、このような人文主義的な思想の下で、個人としての名声を得る人々が誕生します。このような流れは教会の力を持ってしても抑えることは出来ず、ついにはキリスト教でさえも、人文主義的な傾向へと妥協*しなければならない状況でした。

典型例として、ルネサンス期の人文主義者エラスムスの聖書研究が挙げられます。彼は聖書の原典に基づく解釈を行い、いくつかの点で、教会が信仰において誤解を招いていると指摘しました。これは教会が聖書の再解釈を始めるきっかけとなりました。また、マルティン・ルターやジョン・カルヴィンなどのように、人間の自由意志・信仰の自由・個人的な信仰体験を重視するキリスト教徒も現れ、カトリック教会の教義に反発するのでした。かくして、キリスト教においても人間の尊厳を強調する考え方が浸透していったのです。

芸術志向の高まり

人文主義的な傾向が高まるにつれ、人々の関心は、「神の世界」から「人間の生きる現実世界」へと移りました。そのため、「聖書の解説」という従来の役割*から離れた、「ドラマ化された絵画」という新しい需要が生まれます。

中世の西洋絵画の役割は、文字が読めない人にも聖書の世界観が理解できるように、聖書の世界観を視覚的に記すものでした。

画家と表現

写実性が高まる

ジョット・ディ・ボンド−ネ|1266頃−1337|イタリア

ユダの接吻・模写

人間ドラマの構成には、「抽象的な神の世界」から「現実を生きる人間の視点」への変更が必要でした。そのため、「写実性」や「人間の量感」が求められるようになります。先陣を切ったのはジョットです。

遠近法を絵画に用いる

マサッチョ|1401−28

貢ぎの銭・模写

ジョットの宿した火種は、マザッチョの活躍によって大きく開花します。彼の登場により、初期ルネサンスはしかり、絵画史の針が動き出しました。ジョットが「輪郭線」に頼ったのに対し、マザッチョは「光の明暗」によって量感を表現します。かつ「遠近法」の絵画への応用も相まって、写実性の度合いは格段に飛躍しました。

人間の内面性を表現

ボッティチェリ|1445−1510|フィレンツェ

ヴィーナスの誕生・模写

ボッティチェリは、「物質的な表現」よりも「精神的な表現」に注目します。人体表現で人間の内面を表すことで、絵画のドラマ化を図りました。

参考文献

美術史〈西洋〉|編・中山公男 中森義宗|近藤出版社

西洋美術史|監修・高階秀爾|美術出版社

西洋絵画史入門史|著・諸川春樹|美術出版社

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