作品no73:不安という概念

今回の作品は、「不安という概念」です。「不安」と聞くと、皆様はどのようなものを思い浮かべますか?どちらかというと、ネガティブなもの、というイメージがあるのではないでしょうか。良くないもの、なくした方が良いもの、そう思われるかも知れません。しかし、哲学の世界では、不安という概念は重要です。特に実存哲学では、その核となるものです。それというのも、人が不安を感ずる時、それは無に触れているからです。

不安は無を対象にする

私たちが恐怖する時、それはある特定のものに対して、恐怖を感じています。目の前のヤンキー、鳴り響く雷など。しかし、私たちが不安を感ずるときには、その対象となるものがありません。夜、布団に入って考え事をしていると、ふと、人が死んだらどうなるのか?などと考えてしまい、不安な気持ちになる、試験に落ちたらどうしよう、と考えている内に、不安な気持ちになる。この時、私は死んだわけでも、試験に落ちたわけでもありません。要するに、「現にあるもの」ではないものを対象として、不安という感情を抱いているのです。

無を通じて自己に出会う

その対象は、漠然とした何か、いうなれば無規定です。ゆえに、不安は無を対象にし、不安を感じるということは、無に触れるということなのです。

では、無に触れたからといってどうなるのか?ここからが大事です。実存主義の考えを援用すれば、人は無に触れることで、真の自己に出会えます。それというのも、無は死であり、死を通じて、本当の意味での生きることを自覚することができるからです。

たとえば、ハイデガーに言わせれば、普段の私たちは、自分の人生を生きていません。決まった時間に起きて、会社に行き、休憩をとってまた仕事をして、帰ったら家族の時間を過ごして寝る。これはいわば、人間として生きているに過ぎません。人間の人生を過ごしているだけです。自分が死んだ後も、他の誰かによって人間の人生は続けられるでしょう。この人生には終わりがない代わりに、私という個もありません。

私に個を与えてくれるものは、死だけです。死は誰も代わることができません。死は必ずその人自身を対象にします。死は紛れもなくその人自身なのです。

しかし、死の自覚によって、ただ本来の自己に気づくだけではまだ十分ではありません。それを引き受けなければなりません。多くの場合、死を忘れ、死について考えないことを望みますが、そうではなく、死を受け入れ、死に真っ正面から向き合うことが、私の人生を生きるということになるのです。

不安=自由

また、先ほども申しましたように、不安は無規定を対象にしています。これは言い換えると、自由です。答えを与えられているのではなく、むしろ自分自身で選ばれないといけないということ、だからこそ不安がつきまとうのであり、それはまさに自由ということなのです。すなわち、不安とは自由でもあるのです。

自分の責任で自分自身を選びとり、死を受け入れる、これが哲学における不安という概念です。

様式解説

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