今回の作品は、「知識人」です。基本的には、知識が増えると、自分の武器が増えますから、その分選択肢も増えます。ただ、だからといって、知識が増えた分だけ、自由になるかというと、そうとは言いきれません。知識とはいわば、物事を固定して捉える、ということだからです。たとえば、これは鉛筆である、と知るとき、この物体に、鉛筆という枠組みをはめこんでいます。でも実際、物事というのは、時間によって変化していきますから、過去をさかのぼれば、これは木であって、また未来を想像すると、鉛筆は消耗品ですから、いずれ灰となるでしょう。また、緊急で火を起こしたいときには、その材料となるかも知れませんし、あるいは、ペン回しが得意な人からすると、一種の遊び道具にもなります。このように、本来は様々な姿があるなかで、知識というのは、何か特定のものに固定させる働きがあるわけです。そう考えると、知識をたくさん得るというのは、それだけ自分の思考が固定されていってる、ともいえます。