情念引力とは?
まず、情念引力とは、19世紀の社会思想家シャルル・フーリエの考案した概念で、「四運動の理論」という本に出てきます。
当時は、ニュートンによって、「万有引力の法則」が発見された時代ですから、その影響を受けているのは、いうまでもありません。
要するに、自分の足だけで立っていると思っていたのが、実はそこには重力という働きがあったのだ。それと同じように、自分の感情にも、自分の意思だけではなくて、何か外側からの働きかけがあるのではないか?
そういったことを、この情念引力という言葉にかけたのだと思います。そしてこの情念引力を絵にして表したのが、今回の作品です。
本当に自分の意思?
今ここに、自殺しようとしている人がいます。
今の時代、自殺というと、「この人が自分の意志で死を選んだ」、なんていわれがちですが、その背景には、「いじめ」や「貧困」、「過酷な労働環境」や「孤独感」など、様々な要因があるはずです。
そうであれば、この自殺というのは、本当にこの人の意志だと言い切れるのか?
自己責任という言葉で片付けても良いのか?
ここには、他の力が働いていたのではないでしょうか。
色彩表現
作品の解説はここまでにして、最後に、この絵のこだわり部分を話したいと思います。
私がこの作品で最もこだわった部分は色彩です。
絵の右側は、死を連想させるような暗い色。左側は逆に、希望を連想させるような、暖かい色を用いました。
それというのも、さきほどは、この人を自殺に追いやる力、いじめや貧困などを情念引力の例として挙げましたが、逆にこの人の自殺を引き留める力、やっぱり生きて見よう、そう思わせる、情念引力には、そのような働きかけもあるはずです。
それはたとえば、ほんの些細な一言や、たった一人の理解者なのかも知れません。このように、人を死に追いやる力と、それを引き留める力が引っ張り合っている状態、これが私の思う情念引力なのです。
そして、この人が生きる希望を見出だしたなら、この人は当然、絵の左側に行きますから、希望に満ちた明るい色になります。逆に、この人が右側に行くということは、自殺に追い込む力の方が勝ってしまったということですから、暗い色になるわけですね。