作品№30

この絵が収録されている画集

アマゾンで購入する

誤解される他力本願

他力本願って聞くと、なんとなく他人の力、他人任せ、ってイメージしていませんか?あの人はいつも他力本願だ!私は他力本願だから、自分では何もしない。こんなイメージで捉えられがちです。でも、他力本願というのは、本来仏教で生まれた言葉ですから、そもそも自分と他人みたいに、分けて考えること自体が、あやまりであるといえます。ここからここまでは自分で、ここからはあなた、みたいな分別をするから、「他力本願=他人任せ」みたいな解釈になっちゃうんです。

自分一人では生きていけない

他力というのは、ここからここまでが自分の力で、ここからはあなたの力、という風に区別することの出来ない状態のこと。自分一人の力と思っていたけど、実は色んな人に支えられていた、単純に誰か一人の力とはいいきれない、色んな人の力が組合わさっている。要するに、自分だけの力じゃないんだよ、これが他力本願なのです。

たとえば、難関高校・難関大学を受験して、見事合格した!これはもちろん、受験した本人が努力した結果でもありますし、同時に受験を支えてくれた家族、ご飯を作ってくれたり、必要なお金を用意してくれたり、あるいは余計なお節介かも知れませんが、「勉強しなさい」という声がけなども、力添えとしてあったはずです。他にも、自分に勉強を教えてくれた先生たちの力も欠かせません。つまり、他力が働いていたわけです。

ただし、周りの力だけかというと、そんなわけはありませんよね。どれだけ周りの力が揃っていても、最終的には、本人の頑張りなしでは合格なんて出来ません。自分も頑張ったし、周りも支えてくれた、これらをひっくるめて「他力」というわけです。

あと、今の時代にこんな例えを出すのはリスキーなんですけど、専業主婦というのも分かりやすい例です。俺が外で働いて喰わしてやってる、なんていっても、自分が思う存分外で働けるのは、家事をして生活を支えてくれる主婦の力添えがあってのこと。決して「俺だけ」の力ではありません。ここで、「俺が」なんていっちゃうから喧嘩になっちゃうんですね。「私たち頑張ってる」これでいいんです。

まとめ

ここまでの話をまとめると、他力本願は、自分では何もしない、とか、他人に任せよう、みたいな消極的な態度ではありません。ちゃんと、自分で頑張って下さい。でも、自分だけの力とおごってはいけません。自分が頑張るから周りも応援してくれて、周りが応援してくれたから、自分も頑張れた、このお互いの力が他力本願なのです。

元ネタは仏像

さて、タイトルの意味が分かったところで、絵の解説に入ろうと思います。まず、この絵の元ネタは、仏像です。お寺に行けば必ずありますよね。この仏像っていうのは、実は宗派によって違うって知ってましたか?たとえば、立っている仏像もあれば、座っている仏像もあります。これは、各宗派の考え方の違いから生じます。たとえば、座ってどっしり構えていると、こちらにおいでって呼んでいるようにも見えますし、立っていると、逆に私たちのところに来ようとしているかな?という風にも見えます。このような仏像の姿には、各宗派の教義が反映されているのです。

そして今回のテーマは、他力本願ですから、浄土真宗の仏像をイメージしています。浄土真宗の教義を簡単に説明しておくと、「阿弥陀様が私たちを救って下さる」というもの。自分の力で解決しよう、というのではなくて、自分の力ではどうにもならないから、助けて下さい、という感じです。

ただ、先ほど他力本願でも話したように、これは自分では何もしない、ということではありませんよ。何もしなくても、阿弥陀様が勝手に助けて下さる、この解釈も間違いとはいえないんですけど、誤解を生んじゃいますので、復習がてら、少し捕捉しておきます。そもそも、「助ける」という行為には、「助ける力」と「助けられる力」の両方がないと成立しません。たとえば、みんなお腹いっぱいのところにアンパンマンが現れても仕方がないですよね。誰も助けを求めていないから、アンパンマンも助けようがない。名探偵コナンが事件を解決しようとしても、そもそも事件がおきなければ、解決も何もありません。同じように、阿弥陀様の「助ける力」だけでは、誰も助けることができず、「助けを求める私の力」が必要になるというわけです。

これ以上話すと、頭がこんがらがって来そうですね。要するに、大事なことは、他力という漢字にとらわれて、自分のことを「他」から排除してはいけないということ。自分と他人じゃなくて、自分と他人をひっくるめて「他」です。

話しを戻しましょう。阿弥陀様は私たちを助けようとしているのですから、当然、座っていては、助けに行けません。よっこらしょっ、って立ち上がってる間に、手おくれになるかも知れませんから。阿弥陀様は、助けを求める声が聞こえたら、すぐに駆けつけられるように、立っておられるのです。

こだわり部分

そして注目ポイントは右足の親指です。皆様も見る機会があったら、ぜひ確認して頂きたいんですけど、少し親指を立たせています。

これも浄土真宗の教義を反映していて、阿弥陀様は、助けを求められないと、助けにはいけません。先ほどお話ししたように、助けに行く、という行為は、助けを求める人がいてこそ成り立つからです。あの人がこれから苦しむことになるからといって、まだ苦しんでいない人を先回りして助ける、なんてことは出来ないわけです。だから、阿弥陀様の、助けに行きたいけど、その人が助けを求めてくれないから、助けに行けない、このもどかしさを、この親指で表しているんです。要するに、手を伸ばしたいけど、それを我慢している、でも我慢仕切れずに、親指だけ動いちゃった、そんなシーンなんです。お茶目なところもあるんですね。

↑ブログで連載中↑
↑noteに掲載中↑

様式解説

1

西洋絵画史の始まり 西洋絵画史の精神は「人間性の自覚」にある、というのが私の基本的な考えの立場です。そのため、当ブログでは、初期ルネサンスを西洋絵画史の始まりとします。 舞台 フィレンツェ 初期ルネサ ...

2

舞台 ローマ 1492年、芸術文化を支えたロレンツォ・デ・メディチの没後、「フィレンツェ」は、ドメニコ会修道僧サヴォナローラの支配下に置かれ、やや停滞期を迎えます。その一方で、ユリウス二世に代表される ...

3

舞台 ヴェネツィア ローマで盛期ルネサンスが盛り上がりを見せていたその頃、東方とヨーロッパを結ぶ貿易で富を蓄積したヴェネツィアでは、別のルネサンスが誕生していました。一般に、ヴェネツィア派と呼ばれるも ...

4

舞台 アルプス以北 イタリアでルネサンスが盛り上がりを見せていたその頃、アルプス以北の国々でも独自の流れが形成されていました。イタリア・ルネサンスと区別して、北方ルネサンスと呼ばれます。 背景 市民階 ...

5

舞台 国際的な展開 イタリアに端を発したマニエリスムは、16世紀後半には国際的な広がりを見せます。 背景 反宗教改革に乗り出す カトリック教会が「反宗教改革」に乗り出す時代、「神秘的な表現」が求められ ...

6

舞台 フランス 太陽王ルイ14世が主権権を握る「絶対王政期」のフランスもまた、芸術の舞台となりました。自国の土壌で独自の様式を形成して行きます。 背景 フランスへ輸入 イタリア起源のバロックは、国境を ...

7

舞台 フランス 絵画史の中でも、特にロココは時代区分の難しい様式です。そもそもロココとバロックの区分を認めない説もあります。そのため当ブログでは、ロココの特徴が最も顕著に現れている、フランスで展開され ...

8

舞台 フランス 革命期からナポレオン時代にかけてのフランス。ナポレオンは絵画を、自らの理念の「プロパガンダ」として活用しました。そのため、絵画は記録的な意味合いを強めます。 背景 軽快なロココに対する ...

9

舞台 フランス 革命期から王政復古期にかけてのフランス。新古典主義が絵画の主導権を握っていた一方で、その「静的で厳粛な様式」は、人の心を真に動かす力に欠けていました。そんな中、絵画に再び「動き」を取り ...

10

舞台 フランス 第二帝政期、パリの都市改革を始め、社会構造の大きな転換があったフランス。都会人の新しい生活様式などが誕生しました。 背景 産業革命・資本主義の時代 19世紀後半、いよいよ「産業革命」の ...

11

舞台 フランス フランス美術は西洋絵画史の主要舞台の座を確立しました。イギリス風景画の伝統もスペイン画家ゴヤの系譜もフランスに吸収され、オランダ画家ゴッホもこの地での修行を得て覚醒しました。 背景 印 ...

12

舞台 フランス 印象派に続き、フランスが芸術の中心地として君臨しています。 背景 印象派の乗り越え 時代の寵児であった印象派も、1886年には最後の展覧会を迎え、いよいよ批判と反省の対象として乗り越え ...

13

一般に、スーラ・セザンヌ・ゴーギャン・ゴッホの四天王を総称して後期印象派と呼ぶことが多いです。しかし、当ブログでは個人的な趣きもあって、新印象主義(スーラ)・セザンヌ・後期印象派(その他の画家)という ...

14

印象派に並行して、象徴主義が発展 舞台 フランス 象徴主義は各国において多様な発展を遂げました。中でも大きな影響を与えたのは、フランスにおいて展開された象徴主義です。 背景 もう一つの芸術運動 19世 ...

15

著作権に対する配慮:当記事に掲載している模写作品の中には、著作権保護期間中のものが含まれています。そのため、「引用元(元絵)の明記」・「引用の必要性」・「画像は自前で用意すること」・「非営利目的」を徹 ...

16

著作権に対する配慮:当記事に掲載している模写作品の中には、著作権保護期間中のものが含まれています。そのため、「引用元(元絵)の明記」・「引用の必要性」・「画像は自前で用意すること」を徹底した上で、当記 ...

17

著作権に対する配慮:当記事に掲載している模写作品の中には、著作権保護期間中のものが含まれています。そのため、「引用元(元絵)の明記」・「引用の必要性」・「画像は自前で用意すること」を徹底した上で、当記 ...

-仏教, 令和四年作品