キュビズム作品特集

今回は、キュビズムの手法、思想を援用して描いた作品を、四点紹介・解説します。

まず、キュビズムというのを簡単に説明すると、対象を一旦ばらばらに分解して、主観的に再構成すること。


その元祖となるのは、ポール・セザンヌです。

普通に風景をそっくり写すだけなら、こうはならないと思うんですけど、セザンヌなりの風景の捉え方をすると、こんな感じになるのでしょう。キューブ、すなわち立方体によって再構成された世界、だからキュビズム。もちろん、他にも色々な説明のしようがあるのですが、とりあえず、これが初期キュビズムといわれるものです。

こちらの作品が、その初期キュビズムを反映したもの。先ほどお話したように、キューブによって再構成された世界、その意味で、この作品はキュビズムです。

ちなみに、この絵の解説は、こちらの動画でしていますので、詳しくはこちらをご覧下さい。

簡単に要約すると、この絵のテーマとなっているのは、先験的経験論。普通経験というと、私たちが物事を経験して、その法則性を捉えることで、因果関係を理解する、そんなイメージで考えられます。例えば、火に触ると熱い、太陽は東から昇って西に沈む。このように、法則性を読み取って、先を予測する、これが経験を積むということです。でも、本当に、火に触ると熱いのでしょうか?太陽は東から昇り、西に沈むのでしょうか?確かに、火に触ると熱いかも知れません、100回触っても、200回触っても熱いかも知れません。でも、201回目には熱くないかも知れない。太陽は、昨日・今日、東から昇ったが、明日も東から昇るかということは、実際に明日になって確認してみないことには、絶対にそうだと言いきれない。要するに、このような因果関係は、あくまでも私たちの解釈であって、本当にそのような法則があるわけではないのです。私たちは習慣に習って世界を再構成しているに過ぎない。それを表現しているのがこの作品です。

初期キュビズムの次に、キュビズムは分析的キュビズムの時代に入ります。この時代が、一般的に知られているキュビズムではないかなと思います。いわゆる多角的視点を取り入れた時代ですね。複数の視点から対象を見て、それを一つの面において再構成するわけです。平面世界の立体化、だからキュビズムです。私の作品でいうと、この絵がそうです。

どうでしょう、ここで多くの方は、あれっ、と思っていませんか。自分の知っているキュビズムと違う、自分の思っているキュビズムとは違う、自分の好きなキュビズムとは違う、そう感じられた方も少なくないでしょう。その感覚は正しいです。しかし、私がこのように描くのは、あえてです。それというもの、私は視覚的快楽という意味でのキュビズムにはあまり興味がなくて、キュビズムの思想的な部分に興味があります。一つの物事を複数の視点から見る、ここに興味があるのであって、単に形として複数視点から捉える、キュビズムのためのキュビズム、というのには、私個人としてはあまり意義が感じられないのです。

そのため、私のキュビズム作品は、意味的キュビズムというふうに、命名させて頂きます。そして、その意味的キュビズムをもっとも象徴する作品が「犯罪者の肖像」なのです。

「犯罪者」というと、悪い人、社会の除け者、と一概に語られがちです。もちろん、被害者の気持ちを考えると、そういった物言いになるのも仕方のないことでしょう。しかし、見る視点を変えると、本当に根っからの悪人なのか?あるいは生まれついての悪人だったのか?そこにはどんな原因があったのか?その背景から社会問題をみてとることはできないか?など、様々な見方があるはずです。貧困や差別などが加害者を生むきっかけになったのであれば、私たちも無関係であることは出来ません。私たちの営む社会の中で起きている事件である以上、私たちはそこに関与しているはずです。このように、複数の視点から物事を見ることによって、複数の意味を汲み取る、あるいは複数の意味を持たせる、これぞ意味的キュビズムなのです。

最後に、時間的キュビズムを提唱して終わりにします。時間的キュビズムに関しては、正直私以前にも既に提唱している人がいるような気もしますが、一応説明しておくと、過去・現在・未来といった異なる時間を、一つの面に描くというものです。先ほどの多角的視点では、一つの対象に対して、それを複数の視点から見るというものでしたが、単に視点を変えるだけじゃなくて、過去・現在・未来という風に、時間を変えて見る、そして一つの面に再構成するというものです。

個人的に分かりやすいのは、こちらの「人生」という作品です。

作品といっても、これは完成形ではなくて、あくまでも試作品みたいなものなので、その点はご了承下さい。普通肖像画というと、今目の前の姿を描きますが、そうじゃなくて、その人の人生を描く。過去・現在・未来、現実では一点に現れることのないこの時間を、キャンパスの世界だからこそ一点に描くことができる、これが時間的キュビズムです。じゃあ、何のためにそんなことをするかという話ですが、要するに、このキャンパスという二次元の世界に、時間を導入するためです。静的な世界に動きを入れるためです。しかもその時間というのは、現実のように過去から未来へ流れるものではなく、全てが同時。すなわち、動的にして静的、これが時間的キュビズムの目的です。

とはいえ、この作品は全然キューブじゃないですので、これをキューブにしたのが、こちらの作品です。この作品でも、過去・現在・未来といった時間が一点に集合しています。

様式解説

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-その他, 令和四年作品